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オトシブミの国
チョッキリの国


ケシツブチョッキリ族・ハマキチョッキリ族
チョッキリ族(1)
チョッキリ族(2)


イクビチョッキリ族
マルムネ
ヒメイクビ
シリブト
チョウセンデオ
ヤドカリ
トライクビ
クロヘリイクビ
シマイクビ
キアシイクビ
キバライクビ
チビイクビ
ルリイクビ
メダカルリイクビ
トカラルリイクビ
オオズイクビ
オオメイクビ
カバイクビ
エゾイクビ
ミヤマイクビ
コナライクビ
サクライクビ
テングイクビ
Dep.sp.1
Dep.sp.2

イクビチョッキリ族Deporaini

 和名にあるように後頭部が少しくびれ猪首状になっている.短めの吻,四角い頭部,そして複眼は横に張り出す. 体はやや扁平で細長い方形の種が多い.被毛はごく短く,はっきりした点刻列が10本ある. オトシブミ科の多くは上翅が腹部背面を完全に覆うが,イクビチョッキリ族では尾節板は露出する. 非常に似た種類が多く同定は難しい.どこにでもいるコナライクビチョッキリを基準標本として用意しておき, これと比較すると多少分かり易い.

 雌雄の形態差は余り大きくないが判別困難というほどではない.オスはメスに比べて複眼の張り出しが強く, 吻はやや短く,触角は中央より前方に着いており,吻は触角付着点付近で急に屈曲する.メスの触角は吻のほぼ中央に着き, 吻は全体緩やかに湾曲する.

 互いにごく近縁と思われるが,産卵形態は様々である.葉を巻いて揺籃を作るもの,切断するだけで葉を巻かないもの, 産卵後何ら加工をほどこさないもの,茎を切断し産卵するもの,他種の揺籃に産卵するものとあり, 実に産卵するものだけが見つかっていない.多くの種で幼虫は潜葉性で蛹化・羽化は土中でなされる.

 日本には 6 属 24 種が棲息する.

Chonostropheina

マルムネチョッキリChonostropheus chujoi Voss,1956

体長 3.5-4.0(mm)
色彩 上翅は やや光沢のある暗い紺色,その他は光沢のない黒色.
特徴 和名のように前胸側縁が丸く横に張り出す.オスは中央後で最大幅となり,メスは張り出しがやや弱く中央で最大幅となる. 吻は幅広く短い.頭部,前胸背板は強く点刻されサメ肌状をしている.
近似種 なし
ホスト コナラ,ミズナラ,クリ,アベマキ,マンサク,ヤマハンノキ,ブナ,シデ,タンナサワフタギ,カエデ
生態 年1回春出現,幼虫越冬,揺籃
葉を表から直線的に切り(カエデは基部を円形に切る.Dep.sp.2と同様), 裏が内側となるように巻く.揺籃は基部が太く先端が細い.卵は3-4巻きしたところで葉の間に産む. 大きな揺籃では2-3卵産み込むこともある.幼虫は揺籃から脱出し土中で越夏,越冬し,翌春蛹化,羽化する.
分布 普通種
本州,四国,九州        県別分布表




Deporaina

ヒメイクビチョッキリApoderites commodus Sawada,1987

体長 2.2-3.3(mm)
色彩 黒色
特徴 吻は太く短く,頭部の点刻は粗い.前胸背板は幅が狭く頭幅とほぼ同じで,中央には縦に細く溝状の無点刻部がある.
近似種 チビイクビチョッキリ:  大きさはほぼ同じであるが,頭部の大きさの割合が異なる.ホスト, 出現時期が異なり混同する心配は少ない.
コナライクビチョッキリ:  ホスト,出現時期が重なり混同する可能性がある.並べてみると多少違和感があるが微妙である. 頭部の点刻の差から判断できる.
ホスト マンサク,アカシデ,アカガシ
生態 年1回春出現,幼虫越冬?葉切断,潜葉性
出現期間が短く2週間ほどでいなくなる.葉肉中に産卵し,葉を切断する. 幼虫は潜葉性で終齢となると葉から脱出して土中で蛹化・羽化する.
分布 本州,四国,九州        県別分布表
備考 Alonzo-Zarazaga et al.,2017 の旧北区ゾウムシ上科カタログでは Caenorhinus 属に分類されているが,これは明らかな分類ミス.むしろ Deporaus 属に近い.




シリブトチョッキリChokkirius truncatus (Sharp,1889)

体長 3.5-4.5(mm)
色彩 上翅は暗い紺色,頭部,前胸は光沢の弱い黒色,体下面はやや光沢のある黒色でわずかに青味を帯びる.
特徴 吻は細長く,前胸は丸みが強い.メスの吻基部には毛が密生している.上翅は後方に向かって広がり和名のように他種に比べてしりぶとになっている.
近似種 チョウセンデオチョッキリ:  ホスト,分布が異なるので混同する可能性はほとんどない.前胸背板の形の違いで判断する.
サクライクビチョッキリ:  ホストが異なるので同時に捕れることはまずない. 前胸背板の形がシリブトでは前後がともに狭まるのに対し,サクライクビでは筒状で前方にのみ狭まる.
Dep.sp.2:  極めて似ているのに加え, 同時に同じ木から捕れることがあり得るのでやっかいである.メスならば吻基部の毛の有無で容易に判別できるが, オスの場合はサクライクビの時と同様前胸背板の形状を比較する必要がある.
ホスト イロハモミジ,ウリカエデ,イタヤカエデ,チドリノキ
生態 年1回春出現,茎切断
5月中下旬から6月にかけてカエデ類の新梢を切断して産卵する.産卵部は積極的には切り落とさないようであるが, 風が強いと落下してしまう.
分布 山地性
北海道,本州,四国,九州        県別分布表




チョウセンデオチョッキリEusproda proxima (Faust,1882)

体長 3.3-4.2(mm)
色彩 黒色,弱い金属光沢を持った濃青色
特徴 前種によく似た体型をしている.前胸の膨らみは前種に比べると弱く,幅より長さの方が大きい. メスの吻基部には毛が密生する.
近似種 シリブトチョッキリ:  前胸背板の幅で区別できる.
ホスト クズ,マルバハギ
生態 5月初旬に現れ,クズの新梢を切り産卵する.産卵部を切り落とすこともある.
分布 対馬,朝鮮,ロシア                  
備考 原色日本甲虫図鑑 Ⅳ には Depasophilus illibatus Voss として紹介されている.1987年沢田により再検討され新属に移された.




ヤドカリチョッキリParadeporaus depressus (Faust,1882)

体長 2.7-3.8(mm)
色彩 黒色
特徴 寸詰まりの体型で,前胸側面が著しく強く丸く膨らむ.頭部は長さより幅の方が大きく,複眼は突出し, 吻基部は広がる.オスの吻の触角付着点下面には1対の舌状突起がある.
近似種 なし
ホスト 主としてカエデ類に作られたハマキチョッキリの揺籃.
生態 年1回春出現,幼虫越冬?托卵
ハマキチョッキリ類の揺籃に潜り込んで産卵する.揺籃の作成途中からつきまとい産卵のチャンスをねらっている. ミヤマイクビチョッキリの揺籃の中に潜り込んでいるところ,ビロウドアシナガオトシブミの揺籃の上を歩き回っているところをしばしば見ているが産卵は確認できなかった.
分布 山地では少なくはない.
北海道,本州,四国,九州,ロシア        県別分布表




トライクビチョッキリDeporaus (Hypodeporaus) tigris Sawada,1993

体長 3.5-4.0(mm)
色彩 黒色,吻基部,腿節は黄褐色,上翅に帯状の黄褐色紋がある.
特徴 上翅の紋は黄色部が大きくなると上翅肩と中央後に黒い斑点が残るだけとなる. 第9点刻列と第10点刻列は後基節上部付近で合流する.
近似種 なし
ホスト コバノクロウメモドキ,イボタ
生態 年1回春出現,潜葉性
5月初旬葉の裏側から葉肉中に産卵する.産卵後加工することはない.
分布 現在のところ産地は熊本県白鳥山,徳島県剣山のみ.
四国・九州                           




クロヘリイクビチョッキリDeporaus (Hypodeporausohdaisanus Nakane,1963

体長 3.2-6.0(mm)
色彩 肢全体,腹部は黄色,触角は赤褐色,基部2節は暗色. その他の部分の色彩変異は著しい.(全体黒色,頭部のみ黒色,頭部および胸部,上翅会合部が黒色,さらに上翅側縁部が黒色(和名の由来型),全体黄褐色)
特徴 最も大型のイクビチョッキリであるが大きさの変異が著しい.吻は比較的長く,オスではほぼ頭部の長さと同じ, メスでは1.5倍ほどある.雌雄とも大型個体では吻の長さが相対的に長くなる傾向がある.オスの頭部複眼間は中央に向かって深く窪む. メスの頭部複眼間は窪まず中央部に溝があるだけである.上翅点刻列間室はまばらに点刻される. 第9点刻列と第10点刻列は第1腹節上部で合流する.
近似種 キアシイクビチョッキリ:  頭部の窪み具合がやや異なる.今のところ肢全体が黄色のもの, 体長が5.0mmを越えるものはクロヘリイクビチョッキリとしてよいであろう.ホストで区別ができるか確定的ではない.
ホスト シャクナゲ(アズマ,ホン,ハクサン,ツクシ)
生態 年2回?初夏,夏出現,成虫越冬?葉切断,潜葉性
葉または葉柄部分を切って主脈近くに裏側から産卵する.幼虫の蛹化・羽化はどこで行われるかは不明. 東海地方で7-8月に見られる個体は全身黄褐色をしており未熟個体ではないかと思われる.
分布 山地性
本州,四国        県別分布表



シマイクビチョッキリDeporaus (Hypodeporausinsularis Sawada,1993

体長 3.1-4.6(mm)
色彩 肢全体,腹部は黄色.触角,頭部,胸部は黒色.上翅は全体黒色,またはクロヘリ型の配色.
特徴 体型はクロヘリイクビチョッキリに似る.上翅点刻列間室は粗く密に点刻される.第9点刻列と第10点刻列は第1腹節上部で合流する.
近似種 クロヘリイクビチョッキリ:  ホスト,分布が異なりまず混同することはない.上翅点刻列間室の点刻の状態.
キアシイクビチョッキリ:  ホスト,分布が異なりまず混同することはない.後基節の色彩.
ホスト ウラジロガシ,マテバシイ,ツツジ類
生態 年1回春出現,葉切断,
分布 九州,屋久島,奄美,沖縄                 




キアシイクビチョッキリDeporaus (Hypodeporausfuscipennis Sharp,1889

体長 2.8-3.8(mm)
色彩 前肢基節,前肢腿節腹面,中肢基節,中肢腿節基半部腹面,後肢腿節基半部腹面,脛節腹面は黄褐色. 脛節背面,ふ節は暗褐色.その他は黒色.沢田によれば色彩変異がかなりありクロヘリイクビチョッキリにそっくりのものもあるという.
特徴 オスの頭部は細長く両側ほぼ平行,メスは方形で後頭部側面はやや膨らむ.オスの複眼間はやや窪むが前種ほどでなく, 窪み部分の点刻もやや少ない.第9点刻列と第10点刻列は第1腹節上部で合流する.
近似種 クロヘリイクビチョッキリ: 後基節の色彩で区別する. オスは頭部の窪みの状態がやや違う.平均的個体では大きさはかなり異なる.
キバライクビチョッキリ:  頭部の形態が異なる.第9第10点刻列の合流場所の違い.
ホスト ハナヒリノキ,スノキ
生態 年2回?初夏,夏出現,成虫越冬?潜葉性
葉の裏から葉肉中に産卵する.産卵後の加工は行わない.幼虫はマインの中で蛹化・羽化する.
分布 山地性
北海道,本州        県別分布表




キバライクビチョッキリDeporaus (Hypodeporausvossi Sawada,1993

体長 3.8-4.0(mm)
色彩 腹部は暗い赤褐色,前肢基節,前肢腿節腹面は黄褐色, その他は黒色,ふ節はやや淡色.中肢基節,中肢腿節,後肢腿節基部が黄褐色となる個体もある.
特徴 オスの頭部は後方に向かって細くなり,複眼間はやや窪むが強い溝状にはならない.メスの後頭部はやや膨らみほぼ方形, 複眼間中央はわずかに溝状となるが前種ほど強くはない.第9点刻列と第10点刻列は第3腹節上部で合流する.
近似種 キアシイクビチョッキリ:  頭部の形態が異なる.第9第10点刻列の合流場所の違い. 平均的個体では背面から見た肢の色彩が異なり,キバライクビチョッキリが完全に黒く見えるのに対し, キアシイクビチョッキリは前肢,脛節は黄色く見える.
ホスト アセビ
生態 葉を切断
分布 本州,四国        県別分布表




チビイクビチョッキリDeporaus (Orientarodepus) minimus minimus Kono,1928

体長 1.9-3.3(mm)
色彩 黒色
特徴 コナライクビチョッキリによく似ているが平均的には1回り小さい.コナライクビチョッキリの小型個体を 本種と誤同定することがある.個体ごとに見ると大小関係が逆転しているものもあり大きさだけで同定することはできない. 本種の上翅側面にある第9点刻列と第10点刻列とは後基節上部で合流する.両者の間室には大きな点刻はない. 一方コナライクビチョッキリは第9点刻列と第10点刻列接近するものの合流しない.また両者の間室には粗大点刻がある.
近似種 ヒメイクビチョッキリ:  ホスト・出現時期がずれるので同時に捕れることはまずない.
コナライクビチョッキリ:  ホスト・出現時期がずれるので同時に捕れることはまずない. 上翅側面の第9点刻列と第10点刻列の状態から判断する.
ホスト ヤマハギ,ニセアカシア
生態 年2化?晩春,夏から秋,葉切断,潜葉性
葉の基部を切り主脈のすぐ脇の葉肉中に裏側より産卵し,通常葉は切り落とす. 1葉1卵が普通.幼虫は葉から脱出し土中で蛹化・羽化し夏に地上に現れる.8月から9月にかけて産卵している個体を見ることがあり, 少なくとも一部は年2化と思われる.
分布 普通種
本州,四国,九州        県別分布表




ルリイクビチョッキリDeporaus (Caenorhinus) megacephalus (Germar,1823)

体長 3.0-3.8(mm)
色彩 顕著な光沢のある瑠璃色
特徴 体はかなり細長く肢もかなり長い.吻は細く,長さはオスで幅の2倍強,メスでは幅の3倍程度. オスの頭部はその幅より長く後頭部は両側平行かややすぼまる.メスでは幅長さほぼ同じで後頭部はやや膨らむ. 口吻先端の突起はオスメスとも大きく鋭く2個 (中央に痕跡的な歯がみられるものもいる).第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 メダカルリイクビチョッキリ:頭部の形状で判断するが,オスは極めて困難.メスでは口吻先端にある突起で判断する.
オオズイクビチョッキリ: 頭部の形状で判別する.暖地では出現時期が大幅にずれ同時に見られることはない. 標高1000m以上では出現時期が少し重なるが,ホストが異なっているので混同する可能性は低い.
ホスト カシ,コナラ,クリ,ヤナギ,ダケカンバ
生態 年1回春出現,幼虫越冬?,葉切断,潜葉性
平地と山地とでは食性が全く異なる.平地では主としてナラ類を利用し,山地ではヤナギを利用することが多い. 東海地方の低地でヤナギを利用しているのを見たことはない.葉を表側から一直線に切り,葉の裏側から葉肉中に産卵し切り落とす. ダケカンバでは丸く切断していた.クリでは主脈の両側に1卵ずつ2卵産み込まれたものが多かった. 老熟幼虫は葉から脱出し土中で蛹化・羽化する.
分布 普通種(平地から亜高山帯)
北海道,本州,四国,九州        県別分布表




メダカルリイクビチョッキリDeporaus (Caenorhinus) sawadai Izawa,2021

体長 2.7-3.5(mm)
色彩 顕著な光沢のある瑠璃色
特徴 体はかなり細長く肢もかなり長い.体長は前種に比べるとやや短い.吻は細く,長さはオスで頭幅の0.8強,メスでは幅の1.2倍程度. オスの頭部はその幅とほぼ同じ長さで,複眼は突出する.後頭部は両側平行かややすぼまる.メスでは幅・長さほぼ同じで後頭部はやや膨らむ. オスの口吻先端の突起は2個,メスではほぼ等間隔で3個.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 ルリイクビチョッキリ: 頭部の形状で判断するが,オスは極めて困難.メスでは口吻先端にある突起で判断する.
オオズイクビチョッキリ: 頭部の形状で判別する.暖地では出現時期が大幅にずれ同時に見られることはない. 標高1000m以上では出現時期が少し重なるが,ホストが異なっているので混同する可能性は低い.
ホスト スダジイ,ツブラジイ,アラカシ,ウバメガシ,コナラ,クリ
生態 年1回春出現,幼虫越冬?,葉切断,潜葉性
葉を表側から一直線に切り,葉の裏側から葉肉中に産卵し切り落とす. 老熟幼虫は葉から脱出し土中で蛹化・羽化する.
分布 普通種(暖地)
本州,四国,九州,屋久島        県別分布表




トカラルリイクビチョッキリDeporaus (Caenorhinus) tokaraensis Izawa,2021

体長 2.7-3.3(mm)
色彩 上翅は顕著な光沢のある緑青色
特徴 体はかなり細長く肢もかなり長い.吻は細く,長さはオスで幅の2倍強,メスでは幅の3倍程度. オスの頭部はその幅とほぼ同じ長さで,複眼はやや突出する.後頭部は両側平行かややすぼまる.メスでは幅長さほぼ同じで後頭部はやや膨らむ. オスの口吻先端の突起は2個,メスではほぼ等間隔で3個.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 他のルリイクビチョッキリ類: トカラ列島には本種しかいない.新鮮な標本は上翅の色が全く異なるので間違えることはない.古い標本では青くなってしまいメダカルリイクビとの判別が難しい.
ホスト スダジイ
生態
分布 トカラ列島北部固有種種
口之島,中之島,諏訪之瀬島,悪石島        県別分布表




オオズイクビチョッキリDeporaus (Caenorhinuseumegacephalus Sawada,1993

体長 2.8-4.0(mm)
色彩 顕著な瑠璃色
特徴 吻は太く短く先が大きく広がる.頭部の長さ幅がほぼ同じで前種に比べて大きく,メスでは前胸背板とほぼ同じ大きさである. オスの方はメスほどではなくルリイクビチョッキリとの差は小さい.オスの口吻先端の突起は2個,メスは3個で中央の歯はやや小さい.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 ルリイクビチョッキリ:  大日本昆虫図鑑には本種がルリイクビチョッキリとして図示されている.
ホスト ヤマボウシ,ミズキ
生態 年1回夏出現,葉切断,潜葉性
7,8月に現れ,葉の裏から葉肉中に1卵から2卵産み込む.9月にも成虫が見られる.これが新成虫かどうかは分からない.
分布 山地性
北海道,本州,四国,九州        県別分布表




オオメイクビチョッキリDeporaus (Deporaus) hartmanni Voss,1929

体長 3.0-4.5(mm)
色彩 黒色,青白い毛
特徴 和名のように複眼が極めて大きく,他種の1.5倍ほどもある.これは視覚に頼ってオトシブミ類の揺籃を探すための適応ではないかと思われる. オスのすべての脛節端内側に小突起がある.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 なし
ホスト クリ,コナラ
生態 年1回晩春出現,幼虫越冬,托卵,潜葉性
オトシブミ,ゴマダラオトシブミの揺籃に潜り込み葉肉中に産卵する.1揺籃に複数産卵することもある. 幼虫はオトシブミより早く成長し,揺籃から脱出し土中で越夏越冬し翌年蛹化・羽化する.本種に託卵されたオトシブミも正常に羽化する. メスはすでに完成している揺籃を次から次へと回り,頭を揺籃に突っ込んで点検するがなかなか産卵しない.(ヤドカリチョッキリやクチブトチョッキリは葉巻作業中からつきまとう)オスは揺籃に静止してメスの飛来を待ち受けている.
分布 広く分布するが少ない.
本州,九州        県別分布表




カバイクビチョッキリDeporaus (Deporaus) betulae (Linnaeus,1758)

体長 3.6-4.5(mm)
色彩 黒色
特徴 体型はかなり太めで,前胸側面の膨らみは強い.オスの後腿節は著しく太い.後肢ふ節第1節は第2節+第3節より短い. オスの前肢,中肢の脛節端内側に小突起がある.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 なし
ホスト シラカンバ
生態 年1回初夏出現,幼虫越冬?,揺籃,潜葉性
葉の両側から主脈まで曲線的に切る.主脈の所では両側からの切り込み線が食い違う.葉を巻きツノ状の揺籃を作る. ミヤマイクビチョッキリの揺籃によく似ている.
分布 北海道,ロシア,モンゴル,ヨーロッパ       




エゾイクビチョッキリDeporaus (Deporaus) affectatus Faust,1887

体長 2.8-3.4(mm)
色彩 黒色
特徴 吻背面中央部から頭部複眼間に溝状の無毛部があるが複眼間中央を越えない.オスのすべての脛節端内側に小突起がある. 第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 コナライクビチョッキリ:  頭部の溝状無毛部の長さの違いで判別できるが微妙.後脛節端の小突起の有無. 近似種の区別
ホスト ナナカマド,ダケカンバ,シラカンバ
生態 葉切断,潜葉性
葉の表側から葉を丸く切り,裏側から葉肉中に産卵する.
分布 北海道,本州北部,ロシア                   




ミヤマイクビチョッキリDeporaus (Deporaus) nidifichs Sawada et Lee,1986

体長 3.5-4.5(mm)
色彩 黒色
特徴 コナライクビチョッキリに酷似しており,標本を並べた程度では判別できないのでかなり誤同定されていると思われる. 平均的にはコナライクビチョッキリよりやや太めでがっしりした感じがする.吻背面中央部から頭部複眼間を越えて溝状の無毛部があるが, 次種ほど強くはない.前胸背板中央部には細い筋状の無毛部がある.オスの後肢ふ節第1節は長いが, メスのそれは第2節+第3節よりかなり短い.オスの前肢,中肢の脛節端内側に小突起がある.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 コナライクビチョッキリ:  メスは後肢のふ節第1節の長さの違いから,オスは前胸の筋状の無毛部の有無から区別する.  近似種の区別
ホスト クリ,コナラ,アベマキ,ミズナラ,カシワ,カシ,ブナ,シデ,ヤシャブシ,ハシバミ,マンサク
生態 年1回春出現,幼虫越冬,揺籃,潜葉性
コナライクビチョッキリよりはやや遅れて現れるが,しばしば混棲し同じ木に両者の揺籃が作られている. 葉を表側よりU字状に切り,裏が内側となるように2-3巻きしたところで裏側から葉肉中に産卵する. 1個であることが多いが2-3個産み付けることもある.揺籃は先の方が開いたツノ状に巻き上げられ, 巻き戻らないように切り始めとは反対の方にあらかじめ切り込まれていた部分を折り返し接着物質で貼り付ける. ハマキガのなかにはこの揺籃そっくりの巣を作るものがいるができはずっと劣る.幼虫は土中に入って翌春蛹化・羽化する.
分布 かなり普通に広く分布している.個体数は次種ほどは多くない.揺籃から容易に棲息が分かる.
本州,九州        県別分布表




コナライクビチョッキリDeporaus (Deporaus) unicolor (Roelofs,1874)

体長 2.4-4.2(mm)
色彩 黒色
特徴 吻背面中央部から頭部複眼間を越えて溝状の無毛部がある.前胸背板中央には筋状の無毛部はない. 上翅側面にある第9点刻列と第10点刻列は合流せず,両点刻列の間室にはかなり大きな点刻がいくつかある. 雌雄とも後肢ふ節第1節は長く第2節+第3節とほぼ同じ.オスの前肢,中肢の脛節端内側に小突起がある.
近似種 チビイクビチョッキリ:  第9点刻列と第10点刻列の状態から判別.
ミヤマイクビチョッキリ: メスは後肢のふ節第1節の長さの違いから,オスは前胸の筋状の無毛部の有無から区別する.
エゾイクビチョッキリ:  頭部の溝状無毛部の長さの違いで判別できるが微妙.  近似種の区別
ホスト カシ,コナラ,ミズナラ,アベマキ,クリ,マンサク,シデ,ヤマハンノキ
生態 年1回春出現,幼虫越冬,揺籃,潜葉性
4月中旬頃より現れ,初期はカシ類,5月頃からはナラ類を巻く.葉の表から横J字状に切って巻き, 2-3卵互いに離して葉肉中に産み付け,細く巻き上げ先端部分を折り返す.一部主脈を残して一直線に切り自然に丸まったような揺籃を作るものもいる.
分布 極めて普通.都市の緑地公園でも見られる.
北海道,本州,四国,九州,ロシア,朝鮮,中国,インドシナ        県別分布表




サクライクビチョッキリDeporaus (Deporaus) septemtrionalis Sawada,1993

体長 2.5-3.8(mm)
色彩 上翅は弱い光沢のある暗い緑青色,他は黒色
特徴 オスの頭部は方形で,強く点刻される.吻は太く,頭長とほぼ同じ長さ.メスの頭部は長さより幅の方が大きく後頭部側面はやや膨らむ. 吻は長く前胸背板と同程度.雌雄とも上翅は幅広く,後方に向かってやや広がる.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 シリブトチョッキリ:  オスは吻の長さの違い.シリブトチョッキリのオスとサクライクビチョッキリのメスは頭部の形状, 色彩で区別できる.
Dep.sp.2:  吻の長さの違い.サクライクビチョッキリのメスと D.sp.2のオスの吻の長さがほぼ同じ.  
ホスト サクラ(ソメイヨシノを好むようである.ヤマザクラを利用することもあるが少ない.)
生態 年1回春出現,幼虫越冬,葉切断,潜葉性
葉の表側から基部を切り,裏側から葉肉中に産卵する.葉柄部分を切ることもある.積極的に切り落とすことはないようであるが, 非常に脱落しやすく地上に葉が散乱しているのをよく見る.幼虫は土中で蛹化・羽化する.
分布 本州,四国,九州        県別分布表




テングイクビチョッキリDeporaus (Pseudodeporaus) rhynchitoides Sawada,1993

体長 3.5-5.0(mm)
色彩 黒色,上翅はやや青味を帯びる.
特徴 後頭部のくびれが弱く一見チョッキリ族のように見える.オスの頭部はほぼ方形,メスでは幅の方がやや大きく, 後頭部側面の膨らみは弱い.上翅はメスでは後方に向かってわずかに広がるが,オスではほぼ平行.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 サクライクビチョッキリ:  頭部の形態で区別できる.  
ホスト オオシマザクラ
生態 年1回春出現,葉切断,潜葉性
5月初旬に現れ,葉を切断し葉肉中に産卵する.
分布 九州 (英彦山),埼玉                   




Deporaus sp.1

体長 3.0-4.2(mm)
色彩 黒色
特徴 頭部は雌雄で形態差がほとんどなく,幅より長さの方が大きく,後頭部側面はやや下ぶくれとなる. 上翅は扁平で細長く両側ほぼ平行になっている.オスの上翅側片にはヤスリ状の構造があり発音器ではないかと思われる. メスの後肢ふ節第1節はオスに比べてかなり短いが,ミヤマイクビチョッキリほどではない.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 ミヤマイクビチョッキリ:  同時に捕れることがある.頭部の形態から区別できる.体型は本種の方が細長い.
ホスト ブナ,コナラ
生態 年1回春出現,幼虫越冬,揺籃,潜葉性
ブナ,コナラの芽吹きと同時に現れる.開きかけた葉を横に巻きクロワッサンのような揺籃を作る.(横巻きの揺籃を作る唯一のチョッキリ)揺籃を作る葉の条件が厳しいので同一箇所ではせいぜい2週間ほどしか見られない.卵は通常1卵,ときに複数卵葉肉中に産み込まれ,幼虫は潜葉性である.老熟幼虫は揺籃から脱出し土中で越夏・越冬後翌春蛹化・羽化する.
分布 現時点では分布は非常に限られている.
本州,九州        県別分布表




Deporaus sp.2

体長 2.8-4.0(mm)
色彩 上翅は暗い紺色,頭部,胸部,肢は光沢のない黒色,腹面はやや青味を持った黒色
特徴 オスの頭部はほぼ方形で,吻は頭長より長い.メスの頭部は幅が長さよりやや広く,吻は長く, 頭部と胸部を合わせた程で触角は吻中央より少し基部よりに着く.第9点刻列と第10点刻列は合流しない.
近似種 シリブトチョッキリ:  ホストが同じため同時に捕れることがある.メスは違いが明瞭であるが,オスは紛らわしい. 本種の方が細身で,前胸の丸みがやや弱く,複眼間がやや平圧される.シリブトチョッキリの頭部はやや青味があるが本種は全くない.
サクライクビチョッキリ:  ホストが違うので同時に捕れることはまずない.本種の方が吻がより細く長い. サクライクビチョッキリの方が頭部,胸部の点刻が粗い.
ホスト イロハモミジ,イタヤカエデ,ウリカエデ
生態 年1回春出現,幼虫越冬,葉切断,潜葉性
カエデの芽吹きと同時に現れる.(前種とともに最も早く現れるイクビチョッキリ)カエデの葉の基部を丸く切り, 葉肉中に産卵する.大きな葉には通常複数産卵する.幼虫は潜葉性で,成熟すると葉から脱出して土中に入り越夏・越冬し, 翌春蛹化・羽化する
分布 個体数は少ないがかなり広く分布していると思われる.産卵痕が特徴あるので成虫を見つけることができなくても分布を知ることができる. (マルムネチョッキリの揺籃作成途中で放棄されたカエデの葉と紛らわしいので,産卵を確認する必要がある.葉を透かして見ると産卵痕が分かる.)
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