チョッキリの国

チョッキリ とはどんな虫
「チョッキリ」とはおもしろい名前がついたものです.昆虫の名前には,その形・色彩に由来するもの(クワガタムシ,タマムシ,ゾウムシ,カマキリ), 住んでいる場所や食性からつけたもの(ゴミムシ,ハムシ,キクイムシ),習性などからとったもの(バッタ,チョウ,コメツキムシ,テントウムシ) などがあります.チョッキリとは葉や茎をちょっきりと切るその習性からつけられた名前です. もっとも,一部にはちょっきりとやらないチョッキリもいるのですが.何のためにちょっきりとやるのでしょうか.
 オトシブミと同様林縁部に見られますが,小さくて目立ちにくい,個体数があまり多くない,分布が限られている, 出現期間が短いといった種が多く,実際に観察されたことのない方もいらっしゃることでしょう.ぜひここに書かれている生態を参考に探してみてください.
 右の写真はハイイロチョッキリが産卵したコナラのドングリを切り落とそうとしているところです.
ハイイロチョッキリ

チョッキリ チョッキリ の仲間
左の写真を見てください.典型的な形のものを並べてみました.直ちに気付くのは,ゾウムシのように口(口吻といいます)が長い種が多いということです. (ゾウムシとの違いは触角を見れば分かります.)以前はゾウムシ科の一つの亜科として扱われていました.その後,オトシブミ科が分かれ, その中の一つの亜科に分類されました.一方,オトシブミ科とは独立のチョッキリゾウムシ科 Rhynchitidae として扱う研究者もいます.
 写真から分かるように,形態はそれぞれかなり違っていますね.近縁のオトシブミの方は皆ほとんど同じような形だったのですが. これは産卵習性の違いが反映した結果です.オトシブミは全ての種が揺籃を作りました.詳細はやや違っても基本は同じ巻き方です. 一方チョッキリの方は,揺籃を作るもの,葉を切るだけのもの,茎を切断するもの,実に穴をあけ産卵するものなど様々です. 当然葉を切るだけの種には長い吻などは必要ないでしょうが,実に産卵するためにはかなり長い吻がないと困るでしょう.

分類
 現在,日本では未記載種も含めて 67種+α のチョッキリが確認されおり,5族に大別されています.
ケシツブチョッキリ族(上の写真上左),ハマキチョッキリ族(写真上中),ホソチョッキリ族(写真上右),チョッキリ族(写真下左,下中),イクビチョッキリ族(写真下右)
(1) ケシツブチョッキリ族 Auletini
 体長2-3mmほどの小型のチョッキリで,長く直線的な吻,幅広な頭部,横に張り出した複眼,やや丸みの強い前胸,厚みのある体型, 上翅の点刻ははっきりした条溝を形成しないといったところが特徴です.

(2) ハマキチョッキリ族 Byctiscini
 比較的大型で金属光沢を持った美麗種からなります.吻はかなり長く強く湾曲し.前胸は丸く強く膨らみ, オスには側面下部に前方に向かう鋭いトゲ状突起があります.上翅は方形で強く点刻されますがはっきりとした条溝とはなりません. 普通種が多く,揺籃も分かり易いので,観察する機会は多いでしょう.

(3) ホソチョッキリ族 Eugnamptini
 体長は4-5mmと比較的大型で,短い吻,細長い触角,大きな複眼,幅の狭い前胸, 長く密生する上翅の被毛が特色です.出現時期が初夏からと他のチョッキリに比べて遅めです.

(4) チョッキリ族 Rhynchitini
 その他を全てまとめて所属させてあるため大きさも特徴も一定しません.吻の細長い種, 上翅の被毛が長い種が多いですが当てはまらないものもあります.(1)(2)(3)(5)いずれにも該当しないときはこの族を当たってみればよいでしょう.

(5) イクビチョッキリ族 Deporaini
 吻は比較的短く頭長とほぼ同程度で,頭部は方形で後頭部がややくびれます.体はやや扁平で上翅の被毛は短くあまり濃くありません. 点刻列ははっきりと条溝となり10本あります.

産卵習性
 チョッキリ,オトシブミに共通する特徴として,産卵後に何らかの加工を行う種が多いということがあります. 加工を行うには当然労力と時間が必要なため多くの卵を産むことはできませんので,彼女らは少ない卵を確実に育てるという戦略を採用した虫たちであると言えます. オトシブミ類が1加工に通常1卵であるのに対し,チョッキリ類では複数卵であることが多いという点が違っています.また, オトシブミ類が極めて精巧な揺籃を作ることから,オトシブミ類の方がこの戦略に沿ってより進化していると言えるでしょう. チョッキリ類に比較して,この差がオトシブミ類の個体数の多さや,分布の広さに現れていると思われます.
(1) 新芽,つぼみ,茎に産卵
 ゾウムシ科にも同様の産卵習性をもつものがあり,チョッキリでは最も原初的産卵形態と思われます.産卵部より下方に穴をあけたり切り落としたりして, 産卵部を枯れ死させます.この習性をもつのは,ケシツブチョッキリ族全種,チョッキリ族のかなりの種,イクビチョッキリ族の2種で, チョッキリの中では最も多い産卵形態です.吻の長さはかなり長く前胸の長さと同程度以上です.

(2) 葉を切って産卵
 次に多いのがこのタイプです.主脈部分のみを切る種,葉柄を切る種,葉を切り落としてしまう種があります.産卵部位は主脈中または葉肉中となります. 当然幼虫はすべて潜葉性です.(1)の産卵部位が葉に代わったと考えることができるでしょう.この習性をもつのは,イクビチョッキリ族の大部分, チョッキリ族の2種(まだ生態が判明していない種のうち数種は付け加わりそうです)が知られています.吻は短く頭部と同程度の長さです.

(3) 葉を加工せずに産卵
 このタイプをとっているのは現在分かっている範囲ではキアシイクビチョッキリ1種だけです.ほとんどの種が土中で蛹化羽化するのに対し, この種は葉肉中のマインで蛹化羽化します.恐らく(2)が進化して生葉を食べられるようになり葉を枯らせる必要がなくなったものと思われます. ノミゾウムシはこのタイプです.
産卵様式
(4) 揺籃を作って産卵
 揺籃をつくるのは,ハマキチョッキリ族全 6 種とイクビチョッキリ族の 4 種です.揺籃といってもオトシブミ類のそれほど芸術的ではありません. 巻き戻りを防ぐのに接着物質を口から出して葉を貼り付けること,揺籃の中では蛹化・羽化しないことがオトシブミ類とは違っています. ハマキチョッキリ族は葉柄部分を切って葉を縦に巻き,かなり大きな揺籃を作ります.どの種も吻は長く強く湾曲していて, 葉を切るのにはあまり適さないせいか葉を切ることはしません.通常複数卵産み込まれ,ときには10卵以上のこともあります. イクビチョッキリ族は1枚の葉を切って巻きます.産卵数は1から数卵で,マルムネチョッキリを除いてすべて潜葉性です. このタイプは(2)から進化したものでしょう.

(5) 他種の揺籃に托卵
 現在2種が確認されていますが,もう1種は確実に増えそうです.托卵と言ってもカッコウのように寄主の子を害することはありません. 居候といったところでしょうか.これら3種はおもしろいことにすべて属が異なります.それぞれ平行してこのような習性が進化したということになります.

(6) 実に産卵
 まだ完全には熟していない実に穴をあけ産卵します.現時点で 7 種が知られています(1-2種増えるかもしれません). 産卵した実を切り落とすハイイロチョッキリ,切り込みは入れるものの切り落とさないモモチョッキリ,そして残りの 5 種は全く切ることをしません (ツツムネチョッキリのなかには実を切るものもいます). 産卵する場所は果肉中と種子中(胚乳)とがありますが,幼虫が食べるのはいずれも種子で果肉は食べません.このタイプの成虫の吻は非常に長いのが特徴です.

産卵様式

参考書

ファーブル昆虫記    多くの出版社から出ています.

ファーブル写真昆虫記  7  「長い鼻はあなあけドリル」   シギゾウムシ・チョッキリ・オトシブミ    岩崎書店
      ヨーロッパ種に対応する日本産種の生態写真を見ながら読む子供向きファーブル昆虫記です.

原色日本甲虫図鑑(Ⅳ)  林,森本,木元  編著  保育社(1984)
      日本産42種の標本写真と52種の解説があります.
      その後一部の種について種の統合,学名の変更,和名の変更がありました.

A Systematic Study of the Family Rhynchitidae of Japan(Coleoptera,Curculionoidea)  Yoshihisa Sawada
      Humans and Nature No.2,1993.
      日本産62種のチョッキリの分類に関する総合報告です.12種の新種が記載されました.

A New Species of the Genus Pselaphorhynchites from Mt.Tachibana,Fukuoka(Coleoptera,curculinoidea,Rhynchitidae)  Yoshihisa Sawada
      ESAKIA No.37,pp117-119,1997.
      タチバナチビチョッキリ Pselaphorhynchites morimotoi  の記載論文.

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