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一枚の写真 中編


2.夕焼けの中で・・・

夕焼けも過ぎ、辺りは段々暗くなり始めた公園で、彼女は一人ベンチに座っていた。
「いいんちょ、どうしたの?」
「あぁ、藤田くん」
「ん」
「な、なんでもあらへん」
「なんでも無いってことはないだろ、こんなとこに一人でいるなんて。」
「・・・」
「・・・」
「・・・あ、あのなぁ」
いいんちょは、しばらく躊躇っていたが、ぽつり、ぽつり話し始めた。

昨日、俺と志保が取り合っていた写真を、移動教室から帰ってきた時に見つけた事。
返そうとしたけど、あかりが怒った俺の後を追うように帰ってしまった事。
今日になって、写真を探しているあかりに声をかけづらくて、返しそびれた事。

「そっか。そう言うのって、タイミングが外れるとなかなか言い出せないよなぁ」
「そやぁ。けど、それだけや、ない・・・」
「?」
「・・・」
「なんだよ、気になるだろ。」
「い、いいたない」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「し、写真、返したくなかったんや」
顔を真っ赤にして、そっぽを向いているいいんちょ・・・
(か、かわいいぞぉ・・・いいんちょ)
いいんちょが気に入ったの写真は、何枚かあるうちの一枚。
小さかった頃の俺とあかりと雅史が、いっしょに映っている写真だった。
いいんちょは、取り出した写真を俺に見せながら、
「なんやぁ、こんなにかわいのに、なんでこないなったんやろ?」
「・・・」
「うそやぁ、怒らんといてなぁ。ほんとは・・・
なんで、ここにうちがおらへんのやろってなぁ」
「・・・ああ」
「なんか・・・
 神岸さんが、羨ましくって、少し困らせてやりたかったかもしれへん」
「まさか・・・」
「・・・うち、藤田くんが思ってるほど、ええ子やあらへんて・・・」
「いいや、いいんちょはいい子や、じゃなくて、いい子だよ。」
「・・・?」
「あかりに写真返したくって、ここにいるんだろ?」
「・・・」
「大丈夫だって。あかりも判ってくれるよ。
 俺は、いつだっていいんちょの背中を押してやるからさ」
「・・・ありがと」
「はやく行こうぜ。真っ暗になっちまう。」
「うん」

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