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一枚の写真 後編


3.思い出の中で・・・

夕方遅くに保科さんが、私の家を訪ねてきた。
玄関先では保科さんが、なんだか言い辛そうだったので、私の部屋に上がってもらった。
「・・・」
「・・・」
お茶を出すと、お互い気まずそうにしていた。
突然、
「神岸さん!」
「は、はいっ!」
「これ、神岸さんの写真やろ」
そう言って、写真を取り出した。
「こ、これ!!あたしの・・・」
保科さんから写真を受け取って、中を確かめてしまう。
「あぁ、よかった。
本当にありがとう。保科さん・・・」
「お礼、言われる事、ちゃうねん・・・」
「?」
それから保科さんは、ほんとうはこの写真を昨日拾った事。
渡しそびれて、そのままもって帰ってしまった事。
今日、学校で渡さなかった事を謝ってくれた。

「そんなことないよ。落としたのは、私の不注意だから」
「だけど、ちょっと意地悪やったし・・・」
「・・・届けてくれたのに?」
「教室で、渡しにくくても、帰りに追っかければ、すぐに渡せたはずや」
「・・・」
「だから今思えば、やっぱり意地悪やった」
「・・・どうして?」
「うちな、多分・・・神岸さんが、羨ましかったんや・・・」

保科さんは、ぽつり、ぽつりと話してくれた。
引越しする前の生活。
本当に小さい頃からの幼なじみ。
チョットした事でのケンカ、そしてまだ仲直りできていない事。

「だから、神岸さん達が小さい時の写真を見たら、見せつけられてる気がして・・・」
だから、こめんなさい・・・保科さんは、そう言って頭を下げた。
「私こそ、関係無い写真を学校に持っていったから」
「うちの方こそ・・・」
「・・・」
「・・・」
プッ・・・
ふたり同時に噴出してしまう。
「これじゃあ、お互い切りが無いね」
「ほんまやなぁ。じゃあ、おあいこってことでええか?」
「うん、わたしはいいよ」

この後、保科さんとお互いに小さなころの事を、色々話した。
私が、写真を見せながら、浩之ちゃんや聡史ちゃんとの思い出を話すと
保科さんは、神戸の幼なじみのことを話してくれた。
遊びの事や習慣の違いなんかで、ムキになる保科さんは、学校での優等生の彼女じゃなかった。
楽しくて、話しに夢中になってしまって、気が付くと八時を回ってた。
食事に誘ったけど、やんわりとことられた。
「今日、遅くなるって言ってなかったから。この次、機会があったら、ご馳走になるわ」
玄関まで、彼女を送る。
「保科さん、これ」
「なに?」
「開けていいよ」
保科さんは封筒を渡されると、中の写真を取り出した。
「これ・・・」
それは多分、保科さんが、気に入ってくれた写真のはずだった。
小さい頃の私達三人の写真と昨日の騒ぎの原因になった写真。
「それは、写真を拾ってくれたお礼。十枚だったから、一割で一枚」
「・・・」
「もう一枚は、昨日浩之ちゃんにちゃんと処分しろって怒られたから。」
だから、私が持っているわけにはいかないから、保科さんにもらって欲しいことを伝えた。
少しのやり取りがあったけど、保科さんは写真を大切にしまって帰っていった。


「その分だと、うまくいったみたいだな」
「ふ、藤田くん!」
驚いたいいんちょは、すぐにあきれた様に
「暖かくなったといっても、まだ五月や。
外で待っとたら風邪ひいちゃうやろ」
「大丈夫、ちゃんと着替えてきたよ」
「そないな問題や、あらへん。言ってくれたら、もう少し早く切り上げたのに・・・」
「そうしたら、あかりとちゃんと話せなかっただろ?
それより、暗くなったから送っていくよ」
「狼に、ならへんやったらな」
「ならへん、ならへん」
「それやったら、つまらんなぁ」
「だっ〜って、ホントはどっちだ?」
「うそや、うそや。怒らんといて。
ちゃぁんと送っててなぁ」
「・・・最初から、素直にそう言えばいいのに」
「ありがとう、藤田くん。ホンマ、助かったわ」
「そんなに嬉しがるとは・・・」
「送ってくれる事じゃないけど・・・」
いいんちょうの呟きは、小さくって、よく聞こえなかった。
「あのな藤田くん、うち、もう一度神戸の幼なじみに電話してみるわ。
やっぱり、小さい頃からの大事な友達だから・・・」
いろいろ話しながら、二人で歩いて行く。
まだ冷たい夜風の中、暖かい彼女の手のぬくもりを感じながら・・・



エピローグ

これでいいよね、浩之ちゃん。
今日の保科さんが、本当の彼女なんだね。
やっぱりお似合いだよ。

保科さんは、やっぱり浩之ちゃんの事、好きなんだね
浩之ちゃんも、保科さんのこと好きなんでしょ
浩之ちゃんのことだもの。ちゃんと判るよ。

判らなかったのは、本当の自分の気持ち・・・
ずっと、浩之ちゃんが「すき」だったから。
このすきが、恋なのに、気づかなかった。

ごめんね。
ごめんなさい。
私のはつ恋。

ちゃんと伝えられなかったけど、
もう伝えられないから。

あしたから
また幼なじみとして、いられる様に
今日だけは、少し泣いてあげるから・・・

今日だけだけど、

だから、
おやすみなさい・・・

 FIN

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