揺籃の作り方

(1) 葉の点検

 メスが葉に飛来すると葉の表側を何度か巡り歩きます.おそらく葉の状態(葉の大きさ,鮮度,虫食いの有無など)を調べているのでしょう. 気に入らなければ別の葉に移ってしまいます.気に入ると主脈に沿って葉の基部の方に上がってきます.これは葉を切り始める位置を測る行動と思われます.


(2) 葉を切る

 葉の縁に移動して葉を切り始めます.右側から切り始めたり,左側から切り始めたり,どちら側から切り始めるかは決まっていないようです. かなりの数を平均してみると,右利き左利きほぼ同数です.個体によっては違うものもあるかもしれません.種類によって葉の切り方が違います.

 →葉の切り方
      

(3) 葉に噛み傷を付ける

 葉を切り終わると葉の裏に移動します.切り始めた側とは反対側に主脈に沿って細かい噛み傷を密に施します.葉を巻き上げる際に内側となる方です. 葉の周辺部にも噛み傷を入れます.揺籃の底になる部分です. これによって葉がしおれやすくなると同時に, 折り癖が容易に癖が付くようにするためと思われます. 次に下の方から主脈に噛み傷を入れてゆきます.初めのうちは細かく, 基部に近いところではかなりしっかりと付けます.


(4) 葉に折り目を付ける

 しばらくすると葉がしおれ始め葉が少し閉じてきます.オトシブミは主脈にまたがるようにして足に力を入れて葉を挟んでゆきます. やがて折り癖が付き葉が合わさります.
 このとき,折り目は葉の基部の方では主脈から先ほど細かく噛み傷を付けた方に少しずれています.
 なぜ,まん中から二つ折りにしないのでしょうか.紙を二つ折りにして巻いてみてご覧なさい.だんだん内側の紙が余ってきませんか. あらかじめ少し折り目をずらしておかないとうまく巻けなくなってしまうのです.
 さらにオトシブミはこの余った部分をうまく利用して揺籃が巻き戻ってしまうのを防ぐ工夫までやってのけるのです.
オトシブミは天才だ 


(5) 葉を巻く

 葉を巻くと表現しましたが,ただぐるぐると巻き上げるわけではないのです.
紙を巻いてみてください.ノリかテープででも止めておかないと巻き戻ってしまいますね. ところがオトシブミの揺籃では制作途中でもほとんど巻き戻ることがありません.どうしてでしょうか.左下の写真を見てください. リュイスアシナガオトシブミがちょうど底の部分を加工しているところです.なにやら葉を三角形に折っているように見えますね. そうなのです.このように葉を折って押し込むようにして巻いてゆくのです.これはまさに「折り紙」の世界です.


(6) 産卵

 葉を2-3周巻くと表面から穴をあけ,中心部分に卵を産み込みます.ほとんどの場合1個です.2個産む場合も報告されていますが, そう多くはありません.2つの卵が接触していると先に孵化した幼虫が残りの卵を食べてしまいます.また, 揺籃が小さいとその中で2個体同時に蛹化・羽化するのは難しいでしょう.比較的大型の揺籃では複数個体が成虫にまで成長した例が知られています. その場合は産卵孔が別になっており卵が接触しないように産み付けてあります. 2個産卵するのは卵に寄生するハチ,ハエ対策であろうと説がありますがはっきりしたことは分かっていません. (寄生される率が高い地方では,2卵産み込まれている揺籃の比率が大きいそうです.) 2つあればどちらか一方は寄生されずにすむ可能性が高くなるということでしょうが,両方とも寄生されている例も多く 本当にこれが有効な寄生対策になっているかは疑問です.


(7) 仕上げ

 葉巻作業はかなり力がいると思われます.少しずつ着実に巻き上げます.
非常にしばしば葉巻作業中にオスがやってきます.しかし,オスは葉巻作業には何の協力もしません. メスを他のオスにとられないよう確保しておくのが目的なのでしょう.
メスの足は葉巻作業に適するように,スネ(脛節といいます)の先端に鉤爪が2つ(オスは1つ)あります. (ルリオトシブミ族のメスはルリオトシブミを除いて鉤爪は1つ.)これなら葉をしっかりとつかめそうです.
 巻き始めてから30-40分,葉を切り始めてから2時間ほどで,いよいよ仕上げとなります.下の写真から分かるように, 内側の葉を引っ張って巻き付けると,葉が反転して蓋のようにかぶさります.これで巻き戻る心配はなくなりました.



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