君の望み。 僕の望み。 すれ違った僕らの想い。 重なることは無理だろうけれど。 けれども。 想いの螺旋13 ずっとずっと話をしていた。 いつかの夜みたいに。 二人、並んで話をしていた。 「僕の涙が見たかったの?」 「うん…」 ばつが悪そうに望ちゃんは俯いた。 きっと泣くところを見たいなんて意地が悪いことを 言ったとか。 そんな自己嫌悪でいっぱいなんだろう。 「嫌……だった?」 そろそろと下から僕を伺う望ちゃんを見て僕はまた笑った。 昔と違って本当に可笑しいと思える笑顔。 構わないよ、と僕が告げると嬉しそうに顔を輝かす。 ただし、僕は滅多に泣かないから見逃さないようにね とも告げると今度はうーん、とうなっている。 くるくると表情が変わる君は、生そのもの 相変わらずここの空間は真っ暗だけれども。 君がそばにいるとなんだか明かりが 広がったような気分になる。 あんなに倦んでいた感情に自分が振り回されるなんて。 僕も本当に変わったなあとしみじみ思った。 「何考えてるの?」 「昔のことを、ちょっとね」 途端に君の顔が曇る。 僕の過去を君は垣間見たはずだから。 きっと心配してくれているんだろう。 大丈夫、と告げると途端にむくれる。 「普賢はいつもそう言うけれど!! 僕だって話を聞くくらいできるんだからっ」 傍にいることを忘れないでっ!!と必死に訴える君を見て。 それも悪くないなあと思う自分がいることに驚く。 「そうだね」 ゆっくりと頷く僕を見て、君は嬉しそうに 僕に飛びついてくる。 元気だなあ… 僕は望ちゃんに知られないようにこっそり苦笑した。 真っ暗な空間の中で、また他愛のない話に戻る。 修行がどうなっているだの、元始天尊様は剃っているって 言ったけどあの頭は絶対にハゲだとか。 話が途切れた時。 君は黒い空を見上げてゆっくり口を開いた。 昔、家族ともこんな空を見上げていた、と。 天幕の傍、火をたいていつもはどの星が どこにあるかを父親が教えてくれたと。 遊牧民にとっては星の知識は命綱にもなる程大切なものだ。 恐ろしく広い草原の中では方向を知る数少ない手段の一つ。 時々星の出ない夜は、鍋を囲んで他愛のない話をしていたそうだ。 夜も更けると子供は寝て、政治的な話をするらしいけれど。 子供が起きている時は、近所話とか、世間話とか。 お茶の間レベルの話がされていて、本当に楽しかったと。 遠い目をしながら君は話した。 そして僕を見る。 黒曜石のような瞳は僕を見ていた。 「僕が普賢の涙を求めていたように 普賢が僕に何かを求めていたことはわかっている」 「僕は……」 自分の望みを知った時点で賢明な彼なら気が付いていたと 思ったけれど。 こうもあっさり見抜かれるとは…… 相変わらず望ちゃんは油断できない。 だからこそ、楽しいのだけれど。 「君の真実が知りたい。 昔のことも、今の心の闇もすべて……」 再び彼は視線を空へ戻す。 空は少し白んできていた。 まるで霧の深い夜明けのように。 「今は…まだ無理だと思う。 全てを話すのは……。 けれども時期が来たら… 必ず話すから」 普賢にだけは絶対話すから。 待っていて。 僕はそれに頷いた。 約束を呉れるほど、大切に想われいてると。 それがわかっただけでも。 僕は満足だったのだ。 君の望み。 僕の望み。 すれ違った僕らの想い。 重なることは無理だろうけれど。 少しでいいから歩み寄ろう? この歪みが消えるように。 君の傍に居たいから。 ずっとずっと居たいから。 next ************** うむ大分いい感じに戻ってきました。 二人の関係。 てかこの二人こんなにラヴってるのに お友達なんです(爆) 峪栞