ただ知りたかったの あなたのことが知りたかった それだけなの 想いの螺旋12 まるで舞台の幕降りるように。 一瞬ですべてが再び闇に閉ざされた。 二人を残した全ての者が、消えうせる。 静寂が空間を満たした。 それを破ったのは、彼の声。 「この数日後にね… 仙人界からの使いがやって来る。 仙人になる気が無いか?と言われた時。 僕は二つ返事で頷いたよ。 あの家には僕の居場所はもうなかったから」 あの一件から。 父母は普賢を疎むようになった。 兄は普賢を憎むようになった。 そう。 どれだけ距離をおいても追いかけてくる感情。 怖くは無かった。 ただ煩わしかった。 騒音を常に聞いてるような、酷い精神的苦痛。 仙人達ならば、ここほど"音"は煩くないだろうと。 そう考えて来た仙人界。 ここにもやはり、社会がある以上は煩いほどの 感情に溢れていて。 上級の仙人ともなると流れてくるのは穏やかなものが 多かったが。 まだ道士ともなるとなまじ選民意識があるため 人間よりも性質が悪かった。 「そんな中に君がいた」 普賢はそう言って笑った。 「君は僕に沢山のことを教えてくれた。 世界が美しいこと、一緒に笑う楽しさ、 悪戯の面白さ、笑顔の意味… 僕の世界は君のおかげで色づいたんだよ」 「僕は……何もしていない」 ただ友達として接しただけで…本当に何もしていないのだ。 けれども今まで普賢を"特別"に扱った者達と比べれば… たまらなくなって普賢を抱きしめた。 強く、強く抱きしめた。 今まで彼に抱きしめられたことはあったけれど 抱きしめたのは初めてだ、とその時気が付いた。 初めて抱きしめた彼は、思っていたよりも細くなくて… 結構苦労した。 腕の中の普賢は、ほんの少し身を硬くしたけれど… すぐにいつものように抱きしめてくれた。 「僕を軽蔑していない?」 あの少女たちのことを言っているのだろうか? どうしてそんなことを言うのだろうか… 自分が普賢を嫌いになる筈なんてないのに。 繋いだその手を離せる筈が無いのに。 音がなるほど首を横に振る。 必死の否定。 今の自分にできる精一杯。 すると普賢は…泣いたのだ。 笑顔のままで…ほんの一滴だけれども涙が零れた。 綺麗な、雫だと素直に思えた。 人の涙がこんなに綺麗に思ったのは初めてだった。 同時にとても嬉しくて。 自分の前でもう一度、泣いてくれたことが本当に。 嬉しかった。 もう一度強く抱きしめる。 温かい。 ほわほわと、温かくて心地良く幸せな実感。 普賢が傍にいる。 その体温が、なにより現実を伝えてくれた。 あなたのことが知りたかったの。 その笑顔の後ろになにがあるのか。 あの夜の涙の先に何があるのか。 例え貴方が望まなくても。 どうしても知りたかったの。 next ************** 普賢の涙。 天然記念物と並んで貴重。 採集して普太リストに売ると 天文学的値段になりマス(笑) 峪栞