闇の中の旅人。 知らないように ずっとずっと 目を塞いでやっていたのに どうして見てしまったの? 悲劇を 真実を 想いの螺旋11 ずっとずっと普賢を探していた。 普賢の身体は相変わらず冷たいままで。 取り合えず自分の上着を着せ掛けたり抱きしめたり。 できる限りの手は尽くしたけれど。 普賢は一向に目を覚まさなかった。 だから声がする方向に。 普賢の声がした方へ。 ただただ一心に歩いた。 助けたい。 失いたくない。 胸を支配していたのは純粋な恐怖。 大切な人を失うという喪失の恐怖。 やっと見つけた普賢は。 僕と出会う前の普賢だった。 普賢はずっとずっと一人でいた。 どうしてだろう? 僕の知る普賢は僕みたいに寂しがり、ではなかったけれども これほど孤高であろうとはしていなかった。 僕はそこでようやく気が付いた。 普賢がおかしいことに。 だって……普賢笑ってない。 微笑んではいるけれど。 全然笑ってない。 僕の知る普賢の笑顔はもっと 綺麗で、優しくて、慈しみに満ちていて。 僕が大好きで安心する笑顔で。 でも今の普賢の笑顔は、変。 そう、変。 変な笑顔。 なんだか笑っているけど笑っていない。 上手く言えないけれどそんな感じだった。 その理由はすぐにわかったけれど。 普賢のことを理解しようとしているのは いや、家族でいようとしているのはお兄さんだけだった。 普賢の両親は普賢のことを息子じゃないみたいに扱った。 お兄さんも、普賢に遠慮しているみたいだった。 こんなの笑えなくて当然だ。 だって誰も真剣に、普賢に感情をぶつけない。 強いて言うなら普賢に恋をした女の子達が 想いをぶつけていたけれど。 あれじゃ逆効果だった。 感情を理解していてもわかってはいない普賢が 恋なんて一方的で我が儘で… それこそ当人ですら暴れ馬みたいに持て余している激情を ぶつけられても何も解らずに当惑して煩わしくなるだけだ。 なのに彼女達は一方通行を止めなかった。 普賢に要求を押し付けて、自分の願望ばかり見ていて。 普賢は貴女達の人形じゃないって何度も叫びかけた。 その上にお兄さんまで普賢に…酷いことを。 僕はもう、耐え切れなかった。 気が付いたら叫んでいた。 けれどもその声に気が付いてくれたのは普賢だけで。 お兄さんは普賢の首を締める手を緩めなかった。 普賢が苦しそうに喘いだその時。 お兄さんははっとしたようにようやく手を緩めた。 そして間をおかず、お義姉さんの様子を見に来た 女官が悲鳴を上げた。 庭の死体と普賢の様子に。 その悲鳴を聞いた人達が次々離れにやって来た。 悲鳴をあげる普賢の両親。 泣き崩れる普賢のお兄さん。 始末の手配をする家令。 指示に従い動く下男と女官。 そんな様子を普賢は見ていた。 たった今黄泉路を辿りかけていたというのに。 じっと冷静にそれを見ていた。 僕を見つけると。 普賢はようやく笑ったんだ。 それは酷く弱々しい笑みだったけれど。 いつも僕が見ていた、僕の大好きな笑顔だった。 隠されていた真実から 目隠しをされていたのに どうして悲劇を知ろうとするの? 知ってしまったの? next
************** やあっと望視点の話が出てきたι しっかし望…幼い口調だと思わずジジイ言葉を 打ってしまいアアアアと打ち直してしまいます(涙) 幼い望はカワイイです…攫いたいです 普賢の鉄壁ガード破る自信はないですけど(笑) 峪栞