同じ時の舞台裏。 違う想いがここにある。 想いの螺旋10 「結論から言うと、わしらが二人を救出するのは不可能じゃ。 今二人はこの世界にはおらぬ」 ざわめく十二仙。 太乙など顔が青ざめている。 本人無自覚で、すっかりお母さんが板についているようである。 「して…いま二人どこに? いやその前に…なぜそのようなことになったのだ?」 用意された浄室の中から公主が問う。 「ふむ……」 元始天尊は手に糸巻きを持つ。 「おぬしらも気が付いておったと思うが。 あやつら二人は互いに病的なほど依存しておる。 それが問題じゃった。 わしも常々何とかせねばと思っていたが…… こんなに早くこれが起こると思わんでな」 元始天尊はそこで一息つく。 「人は誰でも心の"壁"を持っておる。 やましいこと、黙っておきたいこと…… それらすべてを他人に明かせるほど強くは無い。 だがのう…あの二人は依存が強すぎて"壁"が不満じゃった。 もっと知りたいけれど、壁にぶち当たる。 壁を壊したい、知りたいという想いが暴走する」 元始は手に持っていた糸棒を巻いている向きと反対に巻き始めた。 糸が解け始める。 「暴走した想いは行き場を無くす。 いままで自分の中で上手く紡がれていた想いの糸が外れて 想いは歪む」 解けた糸はとぐろを巻いていく。 まるで蛇のように。 一山、二山とぐろが出来ていく。 「己のうちで想いを紡いでいた歯車が外れ、空回りしても……… 想いは止まらぬ。 強くなるばかりじゃ。 普通の人間ならばそれで終わりだが… 信念、意志、それは我等仙道にとっては力となる」 ついに糸は終ってしまう。 床に散らばるのは糸で出来た…螺旋。 「歪んだ想いでできた螺旋がどれほど強いか想像できるか? あの二人の想いは強すぎた。 わしの千里眼でも姿が補足できぬ世界を作り出してしまうほど」 からん。 床に糸棒が転がる。 想いでできた螺旋。 その迷宮に迷いこんでしまった二人。 「元始天尊よ…… こちらから二人を助ける術は無いのか?」 重苦しい沈黙を破ったのは公主。 「無い…」 その答えに周囲は息を呑む。 「じゃが…… あの二人なら深層部分にあるお互いを識り… 受け入れられるだろう。 そうすれば…"壁"は消え、歪みは無くなり 二人は螺旋から解放される」 「じゃあ二人は…」 「無事に帰ってくるんですね?」 次々に問い詰める十二仙に元始は頷く。 「あの二人なら帰ってこれるはずじゃ。 わしはそう信じておる」 「ならば私にできることは…… 二人の無事を祈ることだけじゃ」 公主は瞳を閉じ、一心に祈り始める。 他の十二仙も各々自分ができることを始める。 彼らがお互いを想うように。 彼らを案じ、想う者がここにいる。 同じ時の 舞台裏。 君を想う声が 届きますように。 next ************** 元始独壇場。 十二仙書くの楽しくてもジジイ書くのは楽しく ないっス(鬼) 峪栞