春の鰻
木工用ボンドを薄くのばしをり ごつそり春を盗むたくらみ
ハンカチに汕頭刺繍の花と鳥 見知らぬ町のやはらかき音
くらやみのはつか膨らむ春の洞うるはしき毛並みの毛布を抱く
真夜中に牛乳落す自販機に愛を問ふほど疲れてをらず
眠りから覚めたのは「異種婚姻譚」京都町屋のカフェに来たりて
おとうとがいたならきっと欲しがつたデンキ鰻を光ラセテ光ラ
鰻缶かばんに潜ませ疎開するあはれ茂吉のはしき食欲
ピンホールのあいたレトルト 人知れず腐りゆくもの皆抱へをり
カフェラテの泡がもうぢき孵りさうむずむず痒い雲の裏側
夜桜のやうにぼんやり腫れあがるこころの春をどうしてくれよう
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