水弟切
魚毒持つ花を裁る朝深海に眠り続ける夫を思ひて
繭玉の中の蚕の死の記憶持つネクタイは首締めあげる
コップにはコントレックス鰓呼吸とふ生き方にしまし沈めり
わがうちを泳ぐわたくし目を閉ぢて身中めぐる海流にのる
潮の目をなんなく越えて水温のひくいところに入りゆく胸部
張り詰めた鼓膜そよがせ流れる血 わたしのなかの海鳴を聞く
ゆふぐれは海のにほひの遡上する時にしあれば背鰭そよがす
わたくしのさかな時代の心音をあなたはきつと聴いてゐるのね
なんて暖かいんだらう 沈みゆくプールの底のゆらめくひかり
波立たぬみづを抱きたる人なりし 水弟切は咲いてゐますか
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