海抜
絵の具つてこんな匂ひだ牛乳の中の氷はすつかり溶けて
赤蜻蛉動かぬままに道にあり生死のほどは確かめず過ぐ
中央を少し窪ませ湯の中に踊らしてゐるわが自尊心
花野とは秋の季語とぞ知りてより露湿りする歳時記の扉
氷嚢を吊るすスタンド捨てられてまた遠くなる祖母の夏
耳朶の厚さ薄さに幸不幸語りし祖母のあつきみみたぶ
少しづつ老いゆく義母とわたくしを包むテレビの音のおほきさ
幼子のゐぬ家となりノンタンの絵本にしまふ「あつかんべえ」
膝小僧はつか触れあふバスの席子はいつまでも子なのだけれど
いつの間に育つた風か海抜で計れるほどのさびしさがある
back home
|