体内磁石

 

 

地下茎を伸ばす時期です身の薄い鰈の干物のやうな豊饒

 

陰陽に世界を分くる寂しさよ蜻蛉の羽が日に透けてゐる

 

封筒にアラビア数字を書いてをり筆ペンぎぎとかすかに軋む

 

北風もときに相聞歌を歌ふ梢は強く擦れて応ふ

 

風だけを頼りにひとり旧仮名の森を分けゆく裸足になりて

 

忘れれば存在しない もう三日放置してゐる雀の死骸

 

庭先に河原(かはら)母子(ははこ)が揺れてゐる母子は銀の光のもろさ

 

浮遊するたましひ少し持て余しきのふ錨を注文しました

 

指先のひつかき傷が膿を持ち体内磁石が北を忘れる

 

 

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