−Twins Lv.0− 〜わがままな…こいびと?〜 「ねぇ普賢、」 ソファで読書に耽っていた普賢に、望が声を掛けた。 「どうかしたの?」 本から目を離すと、少し潤んだ望の瞳と視線が合う。 「普賢…」 望はそう言って、普賢に抱きついてきた。座っている形ではあるものの、 お姫様だっこと呼ばれる抱かれ方で、望は普賢の首に腕を回す。 「望ちゃん?」 「暫くこうしてていい・・・?」 「でも、この本読んで資料まとめなくちゃ…」 「・・・・・迷惑なのはわかってる。でも、お願い・・・」 少し涙声。 普賢は仕方なく望を抱きしめてやる。 「どうかしたの?」 「普賢大好き・・・」 甘えてくるのはいつものことながら、少し様子が違う。 いつもの元気の良さというか、強引さが微塵も感じられない。 なんだか様子の違う望に戸惑いながら、普賢は細心の注意を払って頭を撫でる。 望は普賢の肩に顔を埋めて、じっとしていた。 ふと、望のため息に普賢が反応した。 普賢は望を離すと、自分の前に座らせる。 「望ちゃん・・・やっぱり・・・」 望は顔が赤く、瞳も微睡んでいた。 「熱は計ったの?」 普賢の問いに、望はゆっくりと首を左右に動かす。 望の手を握り、額に手を当てる。 「こんなに熱がある・・・。なんで放っておいたの。」 心配そうに顔を覗き込むと、望はうつむいた。 「ごめんなさい・・・」 望の頭を撫でて、普賢は立ち上がった。望を抱きかかえてベッドへと運ぶ。 「ちょっと寒いけど我慢してね。」 望をパジャマに着替えさせて、横にする。 「頭痛とか腹痛とか、なにか症状は?」 「ない・・・けど、なんか、ぼーっとする・・・」 ピピピ・・・ 体温計の音。普賢はそれを見て、ため息をつく。 「三十九度七分。よく今まで我慢してたね。いつ頃からかわかる?」 「お昼頃・・・なんか食欲なかった・・・」 思い出すと、確かに望は午後から元気がなかった。 (昨日の夜は冷えたからなぁ・・・。) 普賢と一緒に寝ていても、やはり風邪というのはひいてしまうものなのだ。 引っ越してきてからどちらも風邪をひいていなかったため、家にアイス枕や氷嚢などはなく、 普賢は古典的ながらも氷水につけて絞ったタオルを普賢の額に乗せる。 「気持ちいい・・・」 「そう?良かった。」 「ごめん普賢・・・ベット独り占めしちゃって。」 「別にいいよ。それより、早く治してね。」 「うん・・・。普賢の手、気持ちいい・・・。なんか、こうゆうの好き・・・」 高熱のため力無く、微笑んで普賢の手を握り、望は静かな寝息を立てて眠りに就いた。 子供の時、普賢も熱を出したときがあった。 子供なのだから高熱を出しても当然と言えば当然なのだが、普賢は我慢をしていたため、 必要以上に悪くなり、肺炎で入院することになってしまったのだ。 その時の望の心配様を思い出すと、嬉しい反面辛くなる。 「望、普賢は平気だから・・・」 「やだ…普賢と一緒にいる…」 「望・・・」 太公望に感染るのを心配する両親だったが、病室から無理に出そうとすると泣き出すため、 実力行使にも出られずに困っていた。 昔から、両親や普賢を困らせていたのは望だった。 だけど、困らせながらもいつも一生懸命で。 普賢はそんな望のことが愛しくて仕方なかった。 部屋を覗きに戻ると、もうタオルから冷気が消えていた。 普賢はタオルをまた絞りなおし、額に乗せた。 望の頬を撫でたり髪を梳いたり、心配そうに様子を見る。 普賢はこの夜、ずっと望の看病をしていた。 明け方、普賢はベットに突っ伏して寝ていた。 望と手を握り合っていたのを見て、少し赤くなると、額のタオルが落ちているのを見る。 タオルをなおすつもりでそちらへやった手を、そっと望の額に当てる。 「まだ、熱は下がってないか・・・」 幼いときからあまり発汗しない望は、風邪をひくと治りが悪かった。 症状はほとんど大袈裟なものではなく、元気がなくなり食欲もなく、ぐったりとするだけではあるが、 普段のあれだけ元気な様子と比べると、逆に余計に心配になる。 「でもまぁ、どこかが痛いとかだと可哀想だし・・・」 額に置かれた普賢の手に気付いたのか、望はゆっくりと目を覚ました。 「普賢・・・?」 「そばにいるよ。まだ寝てていいから・・・」 「ん・・・・のど・・・乾いた・・・」 「水?」 「うん・・・」 普賢は台所に消える。 (・・・普賢にこんなに心配かけてる・・・) 起きあがるのも億劫な身体を恨めしく思いながら、望は目を瞑る。 「望ちゃん、水・・・」 普賢がコップを持って戻ってくると、望は激しく咳き込んでいた。 「望ちゃん、」 「けほっ・・・ありがっ・・・こほっ」 呼吸もままならない程で、普賢が背中をさすっても変わらない。 元から熱に体力を奪われている為、すぐに脱力し、ゼイゼイと苦しそうに、 無理矢理呼吸を調えようとする。 しかし、咳は止まなくて・・・。普賢は水を口に含むと、半ば強引に口付けた。 こくん 望の喉が鳴るのを見届けて、ゆっくりと唇を離した。 はぁ・・・と吐息が混ざる。 どうやら水分を含んだことで咳は止まったらしく、望は大きく息を吐いた。 「平気?」 「う・・ん・・・。ありがと・・・・・」 「もっと水、持ってこようか?」 普賢が言うと、望はじっと普賢を見つめた。 「どうかした?」 「普賢が飲ませてくれるなら飲みたい・・・」 ねだるように言う。ただでさえ熱に浮かされて潤んでいる瞳で言われて、普賢は硬直した。 「普賢・・・・・だめ?」 諦めのため息をついて、普賢はまた水を汲んできた。 キスが欲しくてねだったというのも本当ながら、水が欲しかったのも本当だった。 望は水を求めるように少しずつ唇を動かし、喉を鳴らす。 ただ、前者の方をより欲していたのは明確で、水が普賢の口内から望の体内に全て移った後も 唇は離れることなく、舌が甘く絡まる。 当人たちにとってはそれなりに長い時間が経ち、それでも足りないのか、名残惜しそうに唇を離す。 普賢は頬や額にも優しくキスをした。 「・・・なにか他に、欲しいものはある?」 「普賢が欲しい・・・」 熱が手伝っているというのはわかっていながらも、普賢は真っ赤になる。 「・・・さっさと風邪を治したらいくらでも望み通りにしてあげるから・」 言いながら沸騰している普賢を見て、望は力無くくすくすと笑う。 そして、普賢の不器用な優しさに安心しながらもう一度目を瞑った。 しかし、熱は下がらない――――――― 「目、覚めた?」 次に望が目を覚ましたのは正午を過ぎた頃だった。 苦い表情をしている望。 次の瞬間、怠くて動きたくない筈の体に無理を承知で、望は慌ててトイレに駆け込んだ。 普賢がすぐに追って行くと、望は座り込んで嘔吐していた。 「うっ―――――」 酷い咳も重なって、その背をさするのも辛い・・・ 涙でぐしゃぐしゃになっている顔。少し落ち着くと、望は声を上げて泣き崩れた。 もう一度熱を計ると四十度を超える高熱で・・・流石に普賢の頭にも「病院」という単語が浮かんでいた。 既に高熱の所為で、望の思考は正常に働いてはいない・・・ 「望ちゃん、病院に行こう。」 普賢は汗ばんだ望の身体を拭きながら言う。 「やだ・・・」 「そんなこと言っても、これ以上は医者に世話になるしかないでしょう?」 「やだぁ・・・」 「望ちゃん・・・」 どういった理由で嫌がっているのか、見当も付かない普賢は困り果てる。 あまり、望の意見を尊重しないようなことはしたくない。 でも――――― 普賢は望に厚着をさせ、タクシーを呼んだ。 「どうぞ。」 看護婦の案内で、怠くて動けない望は普賢に支えられるように診察室に入った。 「熱が四十一度四分・・・なんでここまで放っておいたんですか?」 「いえ・・・昨日の夜発熱しているのがわかって、早朝は咳き込んだだけで元気だったから安心してたんですけど、 さっき吐いて・・・熱もその時上がっているのに気付いて・・・」 既に椅子に座るのが無理な望はベッドに横になっていた。 普賢と看護婦に上着を脱がされ、聴診器を当てられる。 医者はなにかをカルテに書き込むと、レントゲンを撮るようにと指示をした。 レントゲンの結果、望は肺炎にかかっていることが判明した。 「この高熱が続くとあまり良い状態だとは言えません。入院をお勧めしますが・・・」 「入院させて下さい。これ以上悪くなって、取り返しがつかなくなったら・・・」 医者と普賢のやりとりを聴きながら、望はとても嫌そうな表情をしていた。 病室の小さな個室。 「・・・・・・」 望はずっと沈黙している。別に眠ってはいないのだが・・・ しかし、普賢が席を立って病室から出ていこうとすると、 「待って!」 と叫んだ。 「?」 普賢が振り返ると、望は泣いていた。 「どうしたの?なにか―――」 「やだ。行っちゃやだ。離れないで」 「でも、着替えとか持ってこなきゃいけないし、明日また来るから、」 普賢がそう言うと、望はまた泣き崩れた。 「だから・・・やだって・・・ったのに。」 「望ちゃん?」 「にゅ・・・いんしたら・・・離れるから・・・やだって言ったのにぃ・・・。」 普賢は自分が入院したときのことを思い出した。 普賢はある程度距離を置いて接していたから、一人で夜を過ごすのは平気だったが、 望にはそれだけのメンタルコントロールは出来ていなかった。 まして、今は更に心が近いところにある。離れてなど、絶対に眠れない・・・ 望はきっと、病院という場所にトラウマを持っていたのだ。 そんなに大袈裟ではないが、自然と拒否反応が起こってしまうような・・・・・ 「苦しくても平気だから・・・家、帰ろ・・・。普賢と離れたくないよ・・・」 しゃくり上げて泣いている望の声に、看護婦が病室に入ってきた。 「どうしました?」 普賢は少しバツの悪い表情をしながらも、望を撫でながら説明をする。 「あの・・・今日ここに泊まれませんか?なんか情緒不安定みたいで・・・」 「随分仲がいいんですね。わかりました。ベット持ってきますね。」 看護婦の後ろ姿を見送って、普賢は望を抱きしめた。 「離れないよ。ちゃんと一緒にいるから・・・。でも、ちゃんと病気は治そうね。」 「うん・・・わがまま言ってごめんなさい・・・・」 その日の晩はベットを隣り合わせに、二人は手を握って眠った。 発熱発覚から3日目の朝。 個室だと言うこともあって、二人は看護婦が来るまで熟睡していた。 「ねぇ、ちょっと見て。」 「なに?」 「ほら、この子達・・・」 朝食を持ってやってきた二人の看護婦は、幸せそうに抱き合って寝ている二人を暫し見ていた。 なんとなく、起こしてしまうのが気の毒になるほど幸せそうな寝顔。 「ん…?」 普賢は視線に気付いて目を覚ます。 自分の腕の中で眠る望を見て安心した後、視線をずらして赤面した。 「あっ・・・いや・・・これは癖って言うか寝相って言うか・・・」 看護婦に微笑で受け取られ、更に深みにはまる普賢。 「普賢好き・・・」 何も考えてない望の寝言。看護婦は笑うだけ笑って朝食を置いて去っていった。 「んぅん…」 ゆっくりと、望が目を覚ました。 少し疲れた表情をしながらも、普賢は望の頭を撫でる。 頬を包んで、額を合わせる。 「熱、少し下がったみたいだね。」 「うん。」 「看護婦さんが朝食持ってきたよ。と言っても粥とヨーグルトだけだけど・・・」 望に食べさせるために、蓮華に乗せて少し冷まし、口元に運んでやる。 しかし望は、普賢を見つめるだけで口を開こうとはしない。 「ほら、口開けて。」 「普賢が食べさせてくれなきゃやだ。」 「食べさせてあげてるでしょ。」 「ちゅうがいい。」 望の発言に、普賢はにわかにバランスを崩す。 「昨日水飲ませてあげたでしょ。だいたいここは病院で、僕達は双子で…」 「じゃあいらない。お腹空いてないもん。」 ぷい、と背を向けてしまった望を見て、普賢は仕方なく観念した。 「・・・・・今日だけだよ。」 普賢は粥を自分の口に含んで望に口付ける。ゆっくりと望の喉が嚥下する。 それを何度も繰り返し、普賢は少し後悔しながらも、望の笑顔を見て安心した。 なんとか一週間後には全快した望だが、それからは今まで以上に普賢にべったりになってしまった。 今回の入院は望のワガママを増長させただけのような気がする。 やはり病人に優しくするにも限度がある、とつくづく実感しながらも、 やっぱりねだられると、病気は治ったはずなのにわざと口移しを望む望に負けてしまう普賢だった。 「最近望ちゃん、ワガママだよね…」 「普賢のことが好きなんだからいいでしょう?」 「…ねぇ、ところでそろそろ関係を進めたいんだけど…」 「あ、普賢。今夜は深夜番組で面白そうなのがあるぞ、一緒に見よう♪」 「…あの、望ちゃん…?」 「あ、今何か言ってた?」 「もういいよ…夜遅くまで起きてたいんなら昼寝しててね…」 相変わらずの2人…というか、相変わらずの望だった。 わがままな、たまに恋人の妹に手を焼く普賢だった。 えんど
<紅馬のコメント> このSSはうちのチャットで氷流さんとお話している最中に頂ける事になっちゃいましたVv な…狽ネんて可愛らしい〜〜〜〜!!!Vv こんな素敵SSが頂けるなんて!!!超ラッキ〜〜〜〜Vv(不謹慎) やっぱり氷流さんは私が知っている中で普賢←太公望のSS書きさんナンバー1です!!Vvv 私のツボを良く心得ていらっしゃる〜〜〜〜〜!!Vv もうもう、望ちゃんが可愛いの何の〜〜〜Vvv「行っちゃやだ…」なんて 可愛すぎですVvキスをねだるとことかVv(鼻血) こんな素晴らしいSSに迂闊に私の駄イラなぞつけれませんが(滝汗)、 や、約束なので後日つけさせて頂きます…(汗)皆様すみません…(殴死) というかどの場面も素晴らしすぎてどこのイラをつければ良いのかわからないのですが!! と某チャットで相談したら、某○○さんが「ベットでいちゃいちゃしているとこ!」と おっしゃったので病院のべットシーンを描く事に決定しました(苦笑) 駄イラができるのを待っていたらいつこの素敵SSをアップできるか判らないので 先にアップさせて頂きますVv 氷流さん本当にありがとうございましたV そして例の双子女望の初夜…も楽しみにしております!!VうふふVv これからも仲良くしてやって下さいねVv