あなたが癒してくれる予感
風がやさしい。
夏の日差しが去って、秋が近こうなっとる。
放課後の屋上、…雲が高うなってきたなぁ。
手すりにもたれると、何かが胸の奥から涌き出てくる。
「ふぅ…」
ため息の形をした何かが。
「私でええんやろうか…」
はぁ…、思わず口から出てもうた。
屋上から見る町の風景…、藤田くんが教えてくれたこの風景。
人も悩みもちっぽけに…か、でも今はそう思われへんなぁ。
今までは、何も怖い事あらへんかった。 失いとうない大事なものはここには無かったから。
でも今は…、今私の中で一番大きな存在…。
「藤田くん…」
好きやって言うてくれた。私も、おんなじ…。
でも、不安になってくる。
私、もっと藤田くんが好きになってしまう。 そんとき藤田くんが、私をもっと好きになってくれへんかったら? ううん、好きで無いようになってしまったら?
私は…、どないなってしまうんやろ…。
私は神岸さんほど料理はでけへんし、マルチほど素直にもなられへん、長岡さんみたいに明るくも人気もない…私とつきおうてもええ事ないもんな。
ううん、人付き合いの下手な私の為に藤田くんも変な目で見られとるんかも知れへん。
私は、どなしたらええんやろ。
「やっぱりここかよ、いいんちょ」
誰? いややわ、こんな呆けたところ見られてしもた。
内心ドキドキしながら声の方を振り返ったら…。
!!
「藤田…くん」
それしか言えへんかった、ただ頭の中が真っ白になってもうた。
「何やってんだ、探したぜ」
「……」
「どうした? 何か考え事か? よかったら相談に乗るぜ」
そう言いながら私の隣にならぶと、同じように手すりに持たれて言うた。
「ほら、言ってみろよ。いいんちょ」
藤田くんが、ジッと私を見ている。私の想いが判ってしまうんやないかと思うて。顔を
あげられへんかった。
「……」
「……」
「……」
「……」
…どないしよ。
私が言い出すの待っとる。聞いてもええんやろか? 聞かんほうが…。でも…、でも聞きたい。
「……なぁ、藤田くん」
「ん? なんだ、いいんちょ」
「あ、あのな……、私のどこが好きになったん?」
「…はぁ? 何いってんだ、いいんちょ?」
「何でもいいから、答えてぇな」
「どこって……」
私はワラにすがるような思いやった。知りたいんや、藤田くんにとって私の居る意味。
欲しいんや、自分の価値が…。ううん、他人なんかはどうでもいい、藤田くんにとって私が必要なら他のことなんか、どうでも…。
!? …そうか、そうやったんか…。
人の事なんか、関係あらへんかったんや。みんなのいい所見てたり、藤田くんの気持ちを知ったかぶりして…、妬んでたんや、逃げとったんや。ただ自分が必要やって言うて欲しいだけやったんや…。
「突然言われてもなぁ。何で、そんな事聞くんだ?」
「……」
言われへんよ、こんな事。見えない誰かに嫉妬しとるなんて、藤田くん呆れてしまうわ。ううん、嫌われてしまうわ。……いやや! 藤田くんには嫌われとうない!
「……」
「……」
「はぁ…ったく、しょーがねぇなぁ。いいんちょは」
あっ…、またその目ぇしよる…。
すごく優しい目…、始めは何ちゅう顔しよんのやろって思うてたけど、今は一番好きな表情…。
見入ってると、藤田くんの手が頬に触れてくる。
あったかい…、手からぬくもりが私に入りこんでくる…。そのせいやろか、なんか顔が熱うなってくる。
「なんて言うかさぁ、言葉にできるような中途半端な気持ちで、人って好きになれないんじゃねぇかな?」
「あっ……」
藤田くん……。
「いいんちょが好きなんだ、どこがとか何がとかじゃない」
私の胸は、いっぱいになって目が潤んでくる。
何でやろう。全然答えになっとらへんのに、嬉しゅうて何も考えられへん。
私を見てる藤田くんの顔も赤うなっていく。
「ど、どうもキザな台詞ってのは似合わねぇよな、俺」
あほ、自分で言っといて自分が照れてどうすんの?
でも…、そんなクサイ台詞言うてくれる藤田くんが、私は…。
何や知らんうちに、涙がこぼれてくる。涙を拭うけど、次々に出てきよるから藤田くんの顔が見られへん。きっと照れて「俺らしくねぇなぁ」って顔をしてる。
「うん、そうやな」
私はそう言う事が精一杯だった、
Fin
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